私は柔道整復師・鍼灸師として14年以上、日々クライアントの首や肩の悩みに向き合ってきました。
「肩がこる」「首がこる」、どちらも日常的に使う言葉ですが、この2つを同時にケアできる筋トレのアプローチを知っている方は、まだ少ないと感じています。
整骨院やクリニックでマッサージや電気治療を繰り返しても、しばらくするとまた元に戻ってしまう。
そういった訴えを持つクライアントに共通しているのが、「首と肩の筋肉が連動してうまく使えていない」という状態です。
この記事では、首こりと肩こりに共通する原因を解剖学的に整理したうえで、両方を同時に改善できる筋トレ種目と実践のポイントをお伝えします。
首こり・肩こりに筋トレが効く理由

「マッサージやストレッチでは一時的にしか改善しない」という声は、臨床の現場でも非常によく聞きます。
その理由は明確で、マッサージは硬くなった筋肉を緩めることはできても、なぜ筋肉が硬くなるのかという根本原因には働きかけられないからです。
首こり・肩こりの根本にあるのは、特定の筋肉の「弱化と機能不全」です。
筋肉が正しく使われなくなると、別の筋肉がその穴を埋めるように過剰に働き始め、慢性的な緊張パターンが生まれます。
筋トレによってこの機能不全を解消することが、持続的な改善につながる理由です。
筋トレが首こり・肩こりに効く3つの理由
- 弱化した筋群(深頸部屈筋・僧帽筋中下部)を強化し、代償パターンを解消する
- 肩甲骨の位置を正常化し、僧帽筋上部の過剰緊張を根本から減らす
- 筋肉を動かすことで血流が促進され、疲労物質が蓄積しにくくなる
ただし、すでに痛みやしびれがある状態での高強度トレーニングは逆効果になることがあります。
本記事で紹介する種目は、適切な強度・回数の設定を前提とした内容です。
痛みが強い場合は先に専門家への相談をおすすめします。
首こりと肩こりは「別の問題」ではない

「首こり」と「肩こり」は別々の不調として語られることが多いですが、臨床の現場では両方が同時に起きているケースがほとんどです。
この2つには、解剖学的に深いつながりがあります。
首こりの主役:深頸部屈筋の弱化
首こりの中心にあるのは、頸部の深層に位置する筋群(頸長筋・頭長筋など)の機能低下です。
これらは頸椎を前後左右にコントロールする首のインナーマッスルとして、頸椎を細かくコントロールする役割を担っています。
スマートフォンの長時間使用やデスクワークで頭が前に突き出た姿勢(いわゆるスマホ首・ストレートネック)が続くと、この筋群の機能が低下しやすくなるのです。
するとその代わりに、胸鎖乳突筋や僧帽筋上部が過剰に働き始め、首まわり全体の慢性的な緊張につながっていきます。
肩こりの主役:肩甲骨まわりの筋力バランス崩れ
肩こりの根本にあるのは、肩甲骨を安定させる筋群のバランス崩れです。
前傾姿勢が続くと小胸筋・大胸筋が短縮し、肩甲骨が前に傾き、外側に開いた「巻き肩」の状態になります。
この状態では、肩甲骨を正しい位置に引き寄せる僧帽筋中下部・菱形筋が引き伸ばされた状態になり、うまく力を発揮できなくなって、肩全体が過緊張の連鎖に陥りやすいのです。
首こりと肩こりに共通する原因
- 前傾・前突き姿勢(スマホ首・巻き肩)の慢性化
- 深頸部屈筋の機能低下→僧帽筋上部の過剰緊張
- 肩甲骨周囲筋の弱化→肩甲骨の位置異常と過緊張
首こりが頭痛につながるしくみ
首の筋肉が慢性的に緊張すると、後頭部から頭頂にかけて走る大後頭神経・小後頭神経が圧迫されやすくなります。
これが、肩こり・首こりと同時に感じる頭の重さや締め付け感(緊張型頭痛)の主な原因のひとつです。
頭痛まで出ているケースでは、首の深層筋へのアプローチが特に重要になります。
首こり・肩こりを同時に改善する筋トレ3種目

臨床経験のなかで「この3つを正しく行えるようになったクライアントは、マッサージの頻度が明らかに減る」と実感しています。
ポイントは「深頸部屈筋」「僧帽筋中下部・菱形筋」の両方に同時にアプローチすることです。
①チンタック(顎引き運動):深頸部屈筋の再活性化
ターゲット:頸長筋・頭長筋(深頸部屈筋群)
チンタックは、スマホ首の改善に最も直結するエクササイズです。
道具不要で、すぐ始められます。
やり方
- 椅子に深く腰かけ、背筋を自然に伸ばす
- 顎を軽く引き、後頭部を壁に向けて水平にスライドさせるイメージ
- 頸の前面の奥に軽い緊張を感じたら、その状態を5秒キープ
- ゆっくり戻す。これを10回×2セット
注意
顎を引きすぎると逆に頸部に負担がかかります。
「うなずく」のではなく「後頭部を後ろへ水平に引く」イメージが正しい動作です。
臨床経験から
30代のデスクワーカーで、肩と首が慢性的に凝っていた方にこの動作を指導すると、「首の奥に初めて感じる感覚がある」とおっしゃることが多いです。
それが深頸部屈筋が働き始めているサインです。
最初は1日1セットから始め、違和感があれば無理に続けないようにお伝えしています。
②フェイスプル:肩甲骨を「後ろに引いて・外に開く」力を取り戻す
ターゲット:僧帽筋中下部・後部三角筋・棘下筋
フェイスプルは、ケーブルマシンやチューブがあれば自宅でも行えるのが利点です。
肩甲骨を「後ろに引いて・外側に開く」動作を鍛えることで、巻き肩の修正と肩まわりの過緊張緩和に直結するのが特徴です。
チューブを使ったやり方
- チューブをドアノブや柱など胸の高さに固定し、両端を持つ
- 腕を前に伸ばした状態から、肘を外側に開きながら、こめかみの高さへ引く
- 肩甲骨が背骨に向かって寄るのを感じたら2秒キープ
- ゆっくり戻す。10回×3セット
ポイント
引くときに肩が上がらないよう注意。
肩甲骨を「下に落とした状態で後ろに引く」動きを意識します。
臨床経験から
20代の女性クライアントで「フェイスプルを週3回続けたら、3ヶ月後のマッサージでほぼ触らなくて済む部位が増えた」という事例があります。
肩甲骨周囲筋の機能が戻ると、全体的な肩の緊張パターンが変わってくるのを実感します。
③ベントオーバーロウ(軽負荷):僧帽筋中下部・菱形筋の総合強化
ターゲット:僧帽筋中下部・菱形筋・広背筋
ダンベルを使った定番のロウイング種目ですが、「肩こり改善」の目的では重量より正確な動作と肩甲骨の動きが最優先です。
やり方
- 軽いダンベル(2〜4kg)を持ち、股関節から体幹を45〜60度ほど前に倒す
- 肘を外に開かず、脇を締めた状態で後ろへ引く
- 肩甲骨が寄ったところで1〜2秒キープ
- 腕の力ではなく「肩甲骨を動かす感覚」を優先して戻す
- 12回×3セット
肩こり改善を目的にする場合は以下を守ること
- 重量は軽め(フォームが崩れない重さを選ぶ)
- 動作中に肩が上がったら即リセット
- 左右差を感じたら、弱いほうを1セット多く行う
臨床経験から
整骨院での施術経験から、肩こりが慢性化しているクライアントの多くは、「腕は動くが肩甲骨はあまり動いていない」状態にあります。
ベントオーバーロウの目的は、腕を鍛えることではなく「肩甲骨を動かす神経・筋の回路を再構築すること」だとお伝えしています。
3種目の実践プログラム(週2〜3回)
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週2〜3回・各30分以内を目安にした実践プログラム
| 種目 | セット数 | 回数 | セット間休憩 |
|---|---|---|---|
| チンタック | 2セット | 10回 | 30秒 |
| フェイスプル(チューブ) | 3セット | 10回 | 60秒 |
| ベントオーバーロウ(軽負荷) | 3セット | 12回 | 60秒 |
実施頻度
週2〜3回(連日は避け、1日おきを推奨)
継続の目安は4〜8週間です。
信頼性の高い研究(Andersenetal.,2008)では、週2〜3回・適切な強度での抵抗運動を10週間継続したグループで、肩・頸部の痛みが有意に軽減したことが報告されています。
すぐに変化を感じなくても、まず8週間続けることを目標にしてください。
ストレートネック(スマホ首)がある人への補足

ストレートネックは、頸椎本来のカーブ(前弯)が失われた状態です。
この状態では頭部の重さ(4〜6kg)を首の筋肉だけで支えることになり、深頸部屈筋のさらなる機能低下と、肩甲骨挙筋・僧帽筋上部の過緊張が引き起こされます。
ストレートネックがある場合の注意点
チンタックは有効ですが、頸部に痛みやしびれがある場合は整形外科での受診を先に行ってください。
神経症状(腕のしびれ・放散痛)がある場合は、この記事のエクササイズでは対応できない範囲の可能性があります。
ストレートネックへの対応として、チンタックに加えて胸椎の可動性改善(背中の中央あたりを後ろに反らすエクササイズ)を組み合わせると、首から背中の並びが整いやすくなります。
背中が丸まったまま首だけをケアしても、効果が出にくいためです。
まとめ:首と肩は「セットで鍛える」が正解

この記事のまとめ
- 首こりと肩こりは「深頸部屈筋の弱化」と「肩甲骨周囲筋のバランス崩れ」という共通の原因を持つ
- スマホ首(ストレートネック)は両方を悪化させる姿勢の代表格
- 改善には「チンタック・フェイスプル・ベントオーバーロウ」を組み合わせた週2〜3回のアプローチが有効
- 頭痛も伴う場合は、深頸部屈筋のアプローチを優先する
肩こりや首こりを「マッサージで緩める」ことは対症療法に過ぎません。
根本的な改善を目指すなら、筋肉が正しく使える状態を作る筋トレのアプローチが有効です。
あわせて、デスク環境でのモニター位置やスマホを見る姿勢を見直すことで、トレーニングの効果をより持続させやすくなります。
肩こり改善のための筋トレ全体像については、肩こり改善の全体像はこちらをご覧ください。
首こりが慢性的に悪化するパターンが気になる方は、首こり・肩こりが悪化する原因と対処法はこちらもあわせてご参照ください。
よくある質問
肩が凝りやすい筋肉はどこですか?
A.最も凝りやすいのは僧帽筋上部です。
頭の重さを常に支え、デスクワークや前傾姿勢で過剰に緊張しやすい部位です。
ただし、この筋肉だけをほぐしても改善は一時的。根本には、肩甲骨を安定させる筋肉(僧帽筋中下部・菱形筋)の弱化と、深頸部屈筋の機能低下が関与しており、そこへのアプローチが重要です。
参考文献
- Andersen, L.L., Kjaer, M., Søgaard, K., et al. (2008). Effect of two contrasting types of physical exercise on chronic neck muscle pain. Arthritis & Rheumatism, 59(1), 84–91. https://doi.org/10.1002/art.23256
- Falla, D., Jull, G., & Hodges, P. (2004). Feedforward activity of the cervical flexor muscles during voluntary arm movements is delayed in chronic neck pain. Experimental Brain Research, 157(1), 43–48. https://doi.org/10.1007/s00221-003-1814-9
- Kibler, W.B., Ludewig, P.M., McClure, P.W., et al. (2013). Clinical implications of scapular dyskinesis in shoulder injury: the 2013 consensus statement from the ‘Scapular Summit’. British Journal of Sports Medicine, 47(14), 877–885. https://doi.org/10.1136/bjsports-2013-092425
