この記事でわかること
トレーニングベルトを使うべき場面・使わない方がいい場面
ベルトに頼りすぎると体幹が弱くなりやすい理由と「卒業の目安」
シューズのソールの硬さが腰痛に影響する仕組み
インソールを過信すると逆効果になるケース
「まず腹圧」がすべてのギアの土台になる理由
この記事の結論(3行まとめ)
ベルトは「最大重量の80%以上を扱うときだけ」が基本。常用すると体幹を自力で安定させる力が育ちにくくなる
シューズはフラットソール、インソールは足の問題がある場合にのみ検討/足元の安定が腰への負担を左右する
どのギアよりも先に「腹圧(呼吸・ブレーシング)」を習得することが、腰痛持ちの筋トレで最も重要な土台になる
監修・執筆:ブラック太郎
柔道整復師・鍼灸師(国家資格)、NASM-PES(米国資格)保有。
整形外科クリニック・パーソナルトレーニングジム・リハビリ施設での臨床経験14年以上。
腰痛を抱えながら筋トレを続けるクライアントを数多くサポートしてきた。
腰痛を抱えながら筋トレを続けたい方に向けて、ベルト・シューズ・インソールという3つのギアを正しく使い分ける方法を解説します。
整形外科クリニックやパーソナルトレーニングジムでの臨床現場で14年以上働いてきた私が、腰痛持ちの方からよく受ける質問のひとつが、まさにこの「ギア」についてです。
ベルト(ウエイトベルト・リフティングベルト)を巻けば腰が守れる、良いシューズを履けば痛みが消える/そう思って試したものの、なぜかうまくいかなかった経験がある方も多いはずです。
ギアはあくまでも補助道具であり、使い方を間違えると逆効果になることもあります。
この記事では、臨床の現場で実際に見てきた失敗例も交えながら、それぞれの正しい使い分けを整理します。
筋トレ用トレーニングベルト/「いつ使うか」が9割

ベルトは腰を守る道具ではなく「腹圧を補助する道具」
まず、トレーニングベルトの本質を押さえておく必要があります。
ベルトはコルセットとは異なり、腰を外から固定して守るものではありません。
その主な役割は、お腹まわりに圧力をかけることで、体幹内部の圧力(腹腔内圧、通称「腹圧」)を高める補助をすることです。
腹圧が高まると脊柱への圧縮力が軽減され、スクワットやデッドリフトのような高負荷種目でも腰椎にかかる負担を減らすことができます。
実際に、デッドリフト中のベルト着用を調べた研究では、ベルトを使用したときに腹腔内圧が有意に早く上昇し、脊柱への圧縮力の軽減に寄与する可能性が示されています(Harmanetal.,1989)。
ただし、これはあくまで「自分の腹圧に加えてベルトが補助する」という構造であり、自分でまったく腹圧を作れない状態でベルトを巻いても効果は限定的です。
腹圧の基本的な作り方については、[呼吸・ブレーシング・ドローインの使い分け(腹圧の教科書)]で詳しく解説しています。
ベルトを使う前に、まずここを確認してみてください。
ベルトを使うべき場面
ベルトが有効に機能する場面
- スクワット・デッドリフトなど、最大挙上重量の80%以上(目安:5〜8回が限界の重さ)を扱うとき
- バーベルを使った立位種目で、脊柱に縦向きの大きな負荷がかかるとき
- 疲労が蓄積したセット後半で、フォームの崩れを最小限に抑えたいとき
スクワット中の腹圧を調べた研究では、ベルト装着時に腹腔内圧が高く保たれ、背部筋への圧縮力と筋力要求の両方が低い傾向が示されています(Landeretal.,1990)。
この効果は1RM(1回で挙げられる最大重量)の90%条件で最も顕著であり、軽い重量ではベルトの有無による差は小さくなります。
パーソナルトレーニングの現場では、「8回3セットをしっかり行える重量」に達したあたりからベルトの使用を検討するようにクライアントへ伝えています。
それ以下の軽い重量であれば、ベルトがなくても適切な腹圧とフォームで十分に対応できることがほとんどです。
ベルトを使わない方がいい場面
ベルトに頼らない方がよい場面
- 軽い重量でのウォームアップセット(腹圧を自力で作る練習の機会を逃すことになる)
- チェストプレスやレッグプレスなど、腰への負荷が少ないマシン種目
- 筋トレを始めて間もない時期(まず自分の体幹で支える力を育てることが先決)
- 日常生活での使用(コルセット代わりに常用するのは逆効果の可能性がある)
整骨院で働いていたとき、「腰痛対策にトレーニングベルトを日常的に巻いている」というクライアントを何人か診たことがあります。
長期間ベルトに頼り続けることで、腹横筋や多裂筋といった体幹を安定させる筋肉が十分に使われない状態が続く可能性があり、実際の現場では「ベルトを外したときの不安感が増している」ケースも経験しています。
ベルトは「補助輪」のようなものです。補助輪のまま走り続けることが目標ではないはずです。
なお、ある研究ではベルト着用によって腹部・背部の筋電図(EMG)活動が変化することが確認されており、ベルトが筋肉への刺激そのものを変えうることも示唆されています(McGilletal.,1990)。
ベルトを常に着けていることが、自力での体幹制御を身につける機会を減らす可能性はあると考えられます。
ベルトの正しい締め方と位置
- ベルトの位置は骨盤の腸骨稜(腰骨の出っ張り)のすぐ上あたりが基本。
スクワットでは少し高め、デッドリフトでは少し低め(ただし腰椎を覆うほど下げすぎないこと)と種目によって微調整する - 息を吸い込んでお腹を360度に膨らませたとき、ベルトに「軽く触れている」と感じる程度がちょうどよい締め加減
- 「痛くなるほど強く締める」のは誤りで、お腹が締め付けられると腹圧を正しく作れなくなる
- セットとセットの間の休憩中は、できればベルトを緩めるか外す
ベルトを締めすぎると逆効果
ベルトをきつく締めすぎると呼吸が浅くなり、腹圧を高める動作(息を吸いながらお腹を外に張り出す)がしにくくなります。
「苦しいくらい締めた方が固定される」というのは誤解です。
ベルトはお腹を押しつぶす道具ではなく、腹圧を高めるための「壁」として使うものです。
ベルトへの依存から「卒業する」目安
ベルトなしで安定したフォームを保てる重量が増えてきたら、ウォームアップや補助種目はベルトを外して行うようにしましょう。
最終的には「高重量の本番セットだけベルトを使う」という使い方が、体幹の力を自分で育てながら安全に筋トレを続けることにつながります。
筋トレ用シューズと腰痛/足裏の安定が腰に届く

なぜシューズの選び方が腰痛に関係するのか
「シューズの選び方と腰痛がなぜ関係するのか」と疑問に思う方は少なくありません。
しかし臨床の現場では、足元の不安定さが腰への負担に直結しているケースをよく目にします。
スクワットやデッドリフトなど、立って行う筋トレ種目では、地面を踏む力が足→膝→股関節→骨盤→脊柱という順に伝わります。
この連鎖を「運動連鎖」と呼びます。足裏が不安定だと、力が正しく伝わらず、腰や体幹が余計な動きで補おうとするため、腰への負担が増えます。
腰痛を防ぐ筋トレシューズの3つの条件
筋トレシューズに求められる条件
- ソールが薄くて硬い(沈み込まない)
クッションが厚いランニングシューズは、荷重したときにソールが沈み込み、足首・膝・骨盤の位置がズレやすい - かかととつま先の高低差(ドロップ)が少ない(フラット)
かかとが高いシューズは体重が前に偏り、股関節の動きと背中の筋肉の使われ方に影響が出る - 足をしっかり包んで横にブレない
横方向への安定性が高いほど、片脚に体重を乗せる場面でも骨盤が揺れにくい
スクワット中の動作に対してシューズの種類が与える影響を調べた複数の研究をまとめたレビューでは、「シューズの選択は動きのパターンや関節の角度に直接影響を与える」とされています(Pangan&Leineweber,2021)。
特にかかとの高さの違いが、体幹の前傾角度や股関節・膝関節への負荷の配分を変えることが示されており、足元の条件が腰や上半身にまで影響することが確認されています。
ランニングシューズで筋トレをしている方は非常に多く、私のパーソナルトレーニングの現場でも頻繁に見かけます。
特にスクワットで「膝が内側に入る」「重心がつま先に乗りすぎる」という現象は、シューズのクッションによる足元の不安定さが一因になっていることがあります。
シューズをフラットソールのものに替えただけで、スクワット時の腰への負担感が変わったと報告するクライアントは少なくありません。
足裏の「3点支持」とは
足裏の3点支持
足裏には荷重を支える3つのポイントがあります。
①親指の付け根(第1中足骨頭)
②小指の付け根(第5中足骨頭)
③かかと(踵骨)
この3点が均等に地面に触れている状態が「足裏の安定」です。
ソールが柔らかすぎると体重をかけるたびにこのバランスが崩れ、膝・股関節・骨盤の動きに影響が連鎖します。
スクワットのフォームで膝が内に入ったり体が前に倒れすぎたりする場合、フォームだけでなく「足元」が原因の一部になっていることがあります。
スクワットのフォームについての詳細は[ヒップヒンジ習得ドリルで腰と膝を守るスクワット]で解説しています。
シューズを脱ぐと不安定になる方は要注意
裸足やソックスだけで立ったとき、土踏まずが極端に潰れていたり、片足立ちで大きく揺れたりする場合は、土踏まずのアーチが崩れている可能性があります。
そのような場合は、まずフラットソールのシューズで筋トレに慣れてから、必要に応じてインソールを検討する順番が合理的です。
インソールと腰痛/補助になる人とならない人がいる

インソールの役割を正しく理解する
インソール(中敷き)は、足の土踏まずを支え、着地時の衝撃を和らげる補助道具です。扁平足や外反母趾など、足の構造的な問題がある方には有効な場合もあります。
しかし「インソールを入れれば腰が楽になる」という期待を持って試した結果、あまり効果を感じられなかったという方も多くいます。
インソールは腰痛そのものの治療薬ではありません。
足の問題がフォームを崩し、それが腰への負担を増やしている場合に、間接的に役立つ可能性があるというのが正確な位置づけです。
足の問題が腰痛に関わっていない方には、効果は限定的です。
足の装具(インソールや靴)が下肢の筋活動に与える影響を調べたシステマティックレビューでは、「インソールは一部の筋肉の活動を変える可能性がある一方、効果には個人差が大きく、結果の一貫性は低い」と指摘されています(Murleyetal.,2009)。
つまり、「誰にでも効く」ものではなく、足の状態に応じた選択が必要です。
インソールが逆効果になるケース
こんな場合は過信しないで
- 足に問題がないのに過剰に矯正するインソールを入れると、足首・膝・股関節の角度が不自然になり、むしろ負担が増えることがある
- クッション性が高すぎるインソールは、ソールが厚いシューズと同じ理由で足元を不安定にすることがある
- 左右で足の状態が異なるのに、両足に同じインソールを入れるとバランスがかえって崩れることがある
私が整形外科クリニックで働いていたころ、「高価なインソールを購入したのに腰が楽にならない」と訴えて来院したクライアントが何人かいました。
話を聞いてみると、足の土踏まずではなく骨盤の傾きや体幹の安定性に問題の中心があるケースでした。
インソールはあくまでも足の構造に働きかける道具です。
腰痛の原因が足以外にある場合、インソールだけでは解決しません。
インソールを検討する前のセルフチェック
インソールを試す前に確認したいこと
- 片足立ち(目を開けたまま)で10秒以上、ほとんど揺れずに立てるか?
- 素足で立ったとき、土踏まずは地面から浮いているか(極端に潰れていないか)?
- 歩くとき、左右どちらかの足に体重が偏っていないか?
- シューズのソールを確認したとき、左右で偏った摩耗がないか?
上記で気になる点があれば、まずフラットソールのシューズに替えてみるか、専門家(整形外科や足を専門とする施術者)に相談することをおすすめします。
市販のインソールを試す場合も、まずクッション性が低いシンプルなアーチサポートタイプから始めるのが安全です。
腰痛の筋トレにはギアより先に「腹圧」/すべての土台

どんな優れたギアも腹圧の代わりにはならない
ここまでベルト・シューズ・インソールと3つのギアを解説してきましたが、最も重要なことをお伝えします。
いずれのギアも、体幹の内側から安定を作る「腹圧」の代わりにはなりません。
ベルトは腹圧を補助するものですが、腹圧を作る練習をしていない状態でベルトに頼っても、体幹を安定させる力は育ちません。
シューズが足元を安定させても、骨盤と体幹がぐらついていれば腰への負担は残ります。
腰痛診療ガイドライン2019でも、慢性腰痛に対して「運動療法は有用であり、行うことを強く推奨する」と明記されています(日本整形外科学会、2019)。
ギアはその運動をより安全に続けるための道具であり、運動そのものの代わりにはなりません。
正しいギア導入の順番
- まず腹圧の基本(呼吸・ブレーシング)を習得する/すべてのギアの土台
- 足元を整える(フラットソールのシューズ選び)
- フォームを体幹で支えられるようになる
- 重量が上がってきたらベルトを補助的に導入する
- 必要な場合にのみインソールを検討する
腹圧が先にあってこそ、シューズで足元を整える意味が生まれます。
ベルトはその両方が整った上での「補助」です。
腹圧(IAP)の全体像については[呼吸・ブレーシング・ドローインの使い分け(腹圧の教科書)]を確認してください。
スクワット・デッドリフトでのベルト・シューズの使い方
スクワットではヒップヒンジ(股関節を後ろに引く動き)の習得とともに、足裏の3点支持を意識することが大切です。
フラットシューズで足裏の安定を身につけることで、ベルトの効果も発揮しやすくなります。
デッドリフトでも同様に、足元の安定が体幹への力の伝わり方に影響します。
スクワットのフォーム詳細は[ヒップヒンジ習得ドリルで腰と膝を守るスクワット]、デッドリフトは[最初はハーフ(トップサイド)から始めるデッドリフト]をご覧ください。
よくある質問

Q.腰痛があるときはベルトなしで筋トレしない方がいいですか?
軽い重量・低負荷の種目であれば、ベルトなしで行うことが体幹を育てる上では有益です。
腰痛があるからこそ、まず腹圧を自力で作る練習を優先し、高重量に移行する段階でベルトを補助的に使うという順番が合理的です。
ただし、痛みが強い・足へのしびれがあるといった場合は筋トレより先に整形外科への受診を優先してください。
Q.トレーニングベルトと腰痛用コルセットは何が違いますか?
目的が根本的に異なります。腰痛用コルセットは急性期の痛みを和らげるための短期サポートが目的で、腰部の動きを一時的に制限します。
腰痛診療ガイドライン2019でも急性期の補助として弱く推奨されています。
一方、トレーニングベルトは腹圧を高めて筋トレ中の脊柱を守ることが目的で、硬い素材でお腹全体を囲む構造です。
この2つは「治療のための短期サポート」と「筋トレ中の腹圧補助」という全く異なる用途であり、互いの代わりにはなりません。
腰痛コルセットを筋トレ中に使っても腹圧補助の効果は期待しにくく、逆にトレーニングベルトを腰痛治療のコルセット代わりに常用することも推奨されていません。
Q.ランニングシューズで筋トレしてはいけませんか?
「してはいけない」ではありませんが、特にバーベルを使う種目では足元の不安定さが腰への負担につながりやすいことは知っておくべきです。
複数の研究をまとめたレビューでは、ランニングシューズと裸足・専用シューズを比べたときに、シューズの種類が体幹の傾きや関節への負荷の配分に影響することが確認されています(Pangan&Leineweber,2021)。
スクワットやデッドリフトに本格的に取り組む場合は、フラットソールのシューズへの移行を検討することをおすすめします。
まとめ

この記事のまとめ
- ベルトは腹圧を補助する道具:高重量の本番セットだけに使うのが基本で、常用すると体幹を自力で安定させる力が育ちにくくなる可能性がある
- ベルトの締め方は「息を吸ったときにベルトに軽く触れる程度」が目安:強く締めすぎると腹圧が作れなくなる
- シューズはソールが薄くて硬いフラットタイプが筋トレには向いている:足裏の3点支持が体幹・骨盤の安定につながる
- インソールは足に構造的な問題がある場合に有効だが、過信は禁物:腰痛の原因が足以外にあれば効果は限定的
- すべてのギアの土台は腹圧:ギアはあくまで補助であり、体幹を自力で安定させる力を先に育てることが優先
参考文献
こんな症状があれば、まず整形外科へ
筋トレ中の腰痛であっても、以下の症状がある場合はギアや運動法よりも先に医療機関への受診を優先してください。
- 足・太もも・ふくらはぎへのしびれや痛みが広がる
- 足に力が入りにくい、または抜けるような感覚がある
- 排尿・排便のコントロールに違和感がある
- 安静にしていても、または夜間に痛みが強くなる
- 腰に強い衝撃があった(転倒・バーベルの落下など)
これらは椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、まれに内臓疾患が関与していることがあります。
腰痛診療ガイドライン2019でも、こうした症状(レッドフラッグサイン)や神経症状がある場合は、画像検査などの追加検査を含めた評価が推奨されています。
内部リンク
- [呼吸・ブレーシング・ドローインの使い分け:腹圧(IAP)の教科書]
- [ヒップヒンジ習得ドリルで腰と膝を守る腰痛予防スクワット]
- [最初はハーフ(トップサイド)から始めるデッドリフトで腰を痛めない方法]
- [仕事・運転・スポーツの「困った」から最短で解決する生活シーン別・腰痛対策ガイド]
- [【完全版】腰痛×筋トレの教科書(ピラーページ)]
